Die Enttaeschung
text by Kazue Yokoi

“ディー・エントイシュング”(「失望」という意味)はおそらくベルリンで最もプログレッシヴなジャズを演奏するバンドだろう。高瀬アキとの共演で知られるルディ・マハール、ジャズよりも即興音楽シーンでの知名度が高く、大友良英ニュー・ジャズ・オーケストラのメンバーのひとりでもあるアクセル・ドゥナー、そしてウリ・イェネッセンらがベルリンで出会い、94年頃に作ったバンドだ。(最初のベーシストはヨアヒム・デッテ、後にヤン・ローダーに代わった)

アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハの“モンクス・カジノ”も彼らとの出会いで生まれたプロジェクトで、クインテット(シュリッペンバッハ・プラス“ディー・エントイシュング”)で“モンクス・カジノ”をスタートさせてからは、カルテットではメンバーのオリジナル曲のみ演奏するようになった。

このアルバムを聴いていると1960年代にエリック・ドルフィーが試行錯誤していたある流れが伏流水となって地下に潜り、現代のベルリンでわき上がったような印象を受ける。マハールとドゥナーの2管は、さながらエリック・ドルフィー~ブッカー・リトルのコンビのよう。作品はドイツ人らしく構造的であったり、アブストラクトなのだが、どこかモダンジャズ黄金時代に繋がっている。最近のどんなジャズCD(ただし、私が耳にしたものだけだが)よりもその時代のジャズのニオイを感じるのは、先達がやったことをなぞるのではなく、そこから汲み取ったものを自身の音楽の中で表現しているからだろう。

ここではドゥナーのジャズ・トランペットが存分に聴ける。好きなアルバムの一枚としてトニー・フラセラのLPを挙げる彼の趣向が垣間見える一方、即興演奏で聞かせるようなノン・エモーショナルなサウンドも交えているところがドゥナーらしい。マハールは楽器の特性を生かしながらも時折サックスを吹くようにバスクラリネットを吹く。「100キロしか出せない小型車があったとする。それをボクはいろいろ手を加えて180キロまで出せるようにしたんだ」とはマハールに楽器奏法について質問した時の回答。タイトながらもジャジーなグルーヴ感が失われていないのは、ローダーのベースとイェネッセンのドラムスの好サポートによるところも大きいだろう。

バンド名がまた愉快だ。「失望」という名のバンドが失望するような演奏をする筈がないのだから。久々に現代版モダンジャズを堪能した一枚である。(横井一江)